災害復興の希望を担う通信の使命

世界的にも震災をはじめとした自然災害が多いと言われる日本。2011年に発生した東日本大震災のような大規模地震以外にも土砂災害や台風、河川氾濫などさまざまな自然災害が毎年のように起こります。また、今後南海トラフ巨大地震や首都直下型地震といった震度7を超えるような地震、それに伴う高い津波の発生も予測されていることから、私たち日本人は自然災害リスクと常に向き合って生きていかなければなりません。
そんな中災害時に停電や通信設備の損壊が起こると、通信機器が使用できない状況に陥ることは容易に想定されます。災害時のインフラとして通信手段の確保は、家族の安否を守るうえでもなくてはならないものです。特に最近は異常気象により自然災害の規模も巨大化しているため、これまでの常識レベルの対応では難しいといった現実もあります。
では、災害時のみならず災害復興をも見据えた際、このような高まるリスクに対して通信はどのような役割を担うことを求められるでしょうか?
ここでは、災害復興の希望を担う通信の持つ使命について考えていきます。

通信の使命とは?
いつ起こってもおかしくない大災害のリスクを抱える日本において、どんな状況下でも安定した通信サービスを行うことが通信事業者に求められるミッションとなります。多くの通信事業者は2011年に起きた東日本大震災を教訓として、さまざまな防災対策を実施・検討しているのが現状です。事前に災害防備を考えるのはもちろんですが、万が一起きてしまった災害に対しても、災害復興に向けたネットワーク構築を行うことが通信の持つ使命と言えるでしょう。
災害時の情報通信の在り方
被災した地域に正確な情報をタイムリーに届けることはとても大切です。ただし、情報発信だけでなく受け取るための情報インフラの確保や整備も必要となります。また、日本に住む外国人も増えていることから、日本語によるアナウンス以外に多言語対応による情報発信も必須と言えるでしょう。
災害時の通信の重要性
スマートフォンをはじめとした携帯端末を国民がほぼ1人に1台保有している現代では、災害時にはWi-Fiスポットなどを設置して電波の確保と併せた電源の確保も必要です。また一方で、携帯端末を持たない人や災害時に故障・紛失した方のために、無料の公衆電話設置も求められます。
災害時優先通信
災害時優先通信とは、災害の救援や復旧、公共秩序を維持するために、法令に基づき、防災関係等各種機関に対して固定電話及び携帯電話の各電気通信事業者が提供しているサービスです。災害時には非常に電話が混み合います。そうなると、発信規制や接続規制など通信制限処置が採られ、通常電話は被災地からの発信・被災地への接続が制限されるものの、優先電話は制限を受けずに発信や接続を行うことができます。なお、大規模災害時には約90%以上の制限が行われることもあります。
災害復興への通信対策
通信大手のNTTグループでは、最先端のテクノロジーを駆使しながら、災害対策として「つながらない、を、つくらない」をテーマとした取り組みを行っています。
災害時には初動を早めることがとても重要です。そのため普段よりビッグデータ解析やAIの活用によって災害を事前に予測。事前に災害対策会議を行いどのような災害防備を実施すべきかを検討することも重要で、そのための人員や車両の確保も忘れてはなりません。
災害復興に向けた通信ネットワークの早期復旧
NTTグループでは通信設備を強化する目的として、ハザードマップを基に災害時専用の大ゾーン基地局を全国106ヶ所へ設置。災害用伝言ダイヤルや災害用伝言版といった安否確認手段の提供を行っています。また、停電の長期化に備えて移動電源車の確保や増強、通信設備の予備電源として、小型で大容量のリチウムイオン蓄電器を導入し電力の確保に努めています。
災害に強い通信設備の構築
また、津波や河川の氾濫時の浸水から通信設備を守るため基地局の嵩上げを実施したり、通信ケーブル専用の地下トンネルの設置を行うなどの対策も行っています。最近ではドローンを活用し、通信設備の被災状況の把握も行っています。
防災行政用無線局の開設
防災行政用無線局とは、地方公共団体または地方自治法第 252 条の2の規定によって設置された協議会が、災害対策基本法等の諸法令に基づき、各地域における防災や応急救助、災害復旧等に関する業務および地方行政に関する業務遂行上必要な無線通信を行うために開設する無線局を言います。
災害発生時には、災害の規模や位置、状況を素早く把握し、正確な災害情報を地域の住民に伝達しなければなりません。このことを踏まえ、国や地方公共団体が非常災害時における災害情報の収集・伝達手段の確保を目的として、防災用無線システムを構築しています。
県防災行政無線
県防災行政無線は、固定系と衛星系を併用し出先機関や市町村との無線網を構成。平常時には一般行政事務用として使用、一方で災害時には県庁から通信統制を行い県内の市町村等へ一斉に緊急通報を伝達。災害現場の状況を素早く把握するなど災害対策に貢献しています。
市町村防災行政無線
市町村防災行政無線は、同報系防災行政無線と移動系防災行政無線の2種類に分けられます。
同報系防災行政無線
同報系防災行政無線とは、屋外拡声器や戸別受信機を使って、市町村役場から住民等に対し直接もしくは同時に防災情報や行政情報を伝えるシステムです。
移動系防災行政無線
移動系防災行政無線とは、車載型・携帯型の移動局と市町村役場との間で通信を行うものです。移動系防災行政無線の中でも「地域防災無線」と呼ばれるものは、市町村役場以外にも消防や警察などの防災関係機関、医療、電気、ガスなどの生活関連機関にも移動局を配備。地域の関係機関相互の防災通信網として利活用されています。
無線従事者の養成
防災行政用無線局における無線設備の操作・運用については、基本的に有資格者となる無線従事者が行うか、または無線設備の操作の監督を行う者として選任された主任無線従事者の監督の下に行う必要があります。たとえば、市町村の防災用無線の場合には、第三級陸上特殊無線技士以上の資格が必要となります。
第三級陸上特殊無線技士は総務省が定める無線従事者の国家資格です。この資格を持つことで警察無線や消防無線、鉄道無線、タクシー無線等の基地局、MCA無線の制御局、陸上移動局、携帯局など、さまざまな業務で活躍することができます。昨今では、業務用ドローン操縦を行うのに同資格を取得する人も増えています。
まとめ
現在、スマートフォンなどの通信端末は電話機能だけでなくお財布機能や決済機能なども持ち得ており、不測の事態により利用不可・停止となれば、生命をも脅かすことになりかねません。
そのような現状を踏まえ、日本の各大手通信会社では、今後発生すると言われている南海トラフ巨大地震や首都直下型地震といった大規模災害に備え、さまざまな対策に取り組みネットワークの信頼性向上を目指しています。災害が起きないに越したことはありませんが、国や地方公共団体には、災害発生時になるべく早い通信環境の復旧・整備が行える体制を常日頃から確保しておくことが求められます。
